近年、タイを始めとする東南アジア地域の経済成長はめざましい。この経済成長の過程で農村部の社会、経済構造は急速に変容してきたものの、自給作物の生産は自らの生存確保のために依然として重要な地位にある。本研究では、東北タイ・ドンデーン村において20年に渡り継続的に実施されてきた統合的集落定点調査情報の集約化を通じ、高度経済成長期に農民が稲作を継続してきた理由とその方法を明らかにし、東南アジア農村部の今後の自給的稲作の持続性について一指針を提供する。 今年度の研究では、過去20年間の調査データのGISデータベース化に取り組んだ。データベース化したのは、同村の水田約700haの1978年から2002年までの毎年の水稲生産量および耕作者、耕作境界調査および、2002年に276世帯に対して実施された社会・経済調査である。これら情報を同一の地理空間上に統合し、農学情報と社会学情報が相互に参照できる基盤を構築した。この成果は、「分野融合型集落定点調査情報の時空間データベースの構築と共有に関する研究会」で発表した。 現地調査も実施した。現調査では、村人がタイの高度経済成長期にどのような対応を取り、稲作を継続してきたのかを明らかにするためにインタビューを実施し、1978年から2002年までの米消費量算出に必要な情報(世帯員の出入りや年齢等)や水田所有・耕作面積の変遷、水稲生産技術の導入過程などを聞き取った。インタビュー結果は、GISデータベースへ入力され、水稲生産量と消費量を基に各世帯における過去20年間の米自給状況を明らかにした。
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