研究概要 |
本研究の目的は,アフリカのサバンナ帯における人為植生と地域住民の生業変化との相互関係を多角的に解明することである.すなわち(1)地域社会の人為植生が生業やマクロな社会・経済状況といかに関連し,どのように動態しているのか,(2)その過程において住民が状況に応じて植物利用の技術やそれをめぐる社会制度・社会関係をいかに改変させているかを分析し,(3)在来の資源管理とマクロな環境保全政策との接合の可能性について検討する.本年度は第一に上記(1)(2)に関する現地調査をセネガル中西部のセレール社会を対象として実施した.セレールの人々は自給作物の肥料や現金収入源である家畜の飼料,そして燃料を効率的に供給しうるFaidherbia albidaが優占する植生を農地のなかに古くに形成し,維持してきた.その植生管理の現状を把握するために毎木調査や飼肥料・燃料源となる同種の枝葉の切り方および切枝後の再生状況について,また家畜の飼養規模について追跡調査を実施した.その結果,同種の枝葉を飼料として採集するセレールの男性は,枝葉を同じ個体から繰り返し採取するが,樹勢が持続する範囲内に採取量を留めていることが明らかとなった.他方,日常生活に不可欠な調理の観点から燃料となる枝葉を採取する女性は,その採取によって木を枯死にいたらしめることも確認された.同樹種は飼料・燃料として高頻度で利用されるが,その利用様式は社会内部で異なる男女の生計上の役割を反映しており,男女の社会関係の交錯と人為植生との持続性とが密接に関連していることが示唆された.本年度は第二に,セネガルと同様に西アフリカに区分されるギニアやカメルーン北部を対象として,人為植生の景観形成に関する広域調査を実施した.また,共同研究会を日本アフリカ学会などの場で企画・主催し,アフリカのサバンナ地域における社会人為植生の相互関係にみられる差異と共通点を抽出しようと試みた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在,セネガルのセレール社会を対象とした集約的調査を実施している.その一方,本研究では,セネガルと同様の環境にある他のサバンナ地域でも集約調査を実施し,セレール社会との比較検討をとおした人為植生と農村社会との相互関係についての理解の深化に努める予定であった.だが、研究員の職につき,本研究のエフォートが低下したこと,さらには予算不足から他地域での調査が停滞している状況にある.その不具の解消にむけては,共同研究会を主催しており,総合的にみて本研究はおおむね順調であるといえる.
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