研究概要 |
バングラデシュとインドのウエスト・ベンガル州では地下水のヒ素汚染が問題となっている.ベンガル地域において住民は飲料水を地下水に依存しており,毎日の水汲みは女性の仕事とされている.一方で,パルダ規範が原因で水運びの際に精神的ストレスを感じ,これが適切な水源選択の障壁となっているという報告がある.本研究では,同様の文化背景を持ちながらも外部援助機関の介入に関して異なる履歴を持つバングラデシュとウエスト・ベンガルでの比較分析を行うことで,女性の水源選択行動に影響を与える要因を分析し,最終的には地域に根ざした水利施設導入の計画方法論を構築することを目標としている.H23年度においては,H22年度に取りまとめた現地住民に受容される水利施設の導入計画指針の妥当性を検証するために,現地で実践活動を行っているパートナーNGOに実際に代替技術の導入を行ってもらうよう協力依頼し,代替技術導入後に現地住民へのアンケート調査を実施し,事業の評価を行う予定であったが,導入する水利施設の設備費を獲得できなかったこと,またLocal governmentとの調整が難航したことから,研究が予定通りに進まなかった.一方で,継続的な社会調査の結果を用いて,詳細な現地住民の水源選択行動モデルの作成,および,潜在混合分析を用いて現地住民のリスク認知傾向の相違を分析した.詳細な研究成果は以下の通りである. 1)水源選択行動モデルに社会ネットワーク分析の結果を説明変数として組み込み,水源選択行動が周辺の住民の交友ネットワークからどのような影響を受けているかを統計的に明らかにした. 2)安全な井戸かヒ素汚染された井戸か,深い井戸か浅い井戸か,個人の井戸か公共の井戸か,という井戸の属性を考慮した水源選択行動モデルを推定することで,導入主体の相違が現地住民の水源選択行動に及ぼしている影響を統計的に明らかにした. 3)ワークショップの事前と事後の意識調査の結果を用いて,リスク認知の変化の傾向と,これに影響を及ぼす要因との関係性から,現地住民を内生的にグループ化した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
意識調査や,行動モデルの作成などに関しては,当初の計画以上に進展しており,様々な新たな知見が得られていると考えられるが,最終目標は水利施設導入の計画方法論を構築することであり,本来は計画方法論の妥当性を示して,研究は閉じるものと考えられる.妥当性の検証にあたっては,提案する計画方法論に則った計画にもとづいて事業が実施される必要があり,そめ事業の事後評価をもって計画方法論の妥当性は示されるものと考えられるの.したがって,水利施設の導入が必要であるが,この点で難航しているのが現状である.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,現地への水利施設導入のための資金を獲得し,実際に提案する計画方法論に則った計画にもとづいて水利施設を導入し,計画方法論の妥当性を検証することが課題である.ただし,水利施設の導入が難航した場合でも,社会ネットワーク分析を選択行動モデルに組み込み,住民間の社会相互作用がリスク回避行動にどのような影響をもたらしているかを分析することで,新たな理論モデルの提案およびその実証研究という方向での研究展開は十分可能であると考えている.
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