本研究課題は、「本土防衛・本土決戦」の拠点となった沖縄、済州島、松代の戦跡をフィールドとして、死者や暴力の記憶がどのように想起・忘却され、人びとの間で語られ、記念碑や儀礼を通して表象され、地域の中で(非)共有化されてきたのかを検証しようとするものである。本研究課題では、フィールド調査を踏まえた文化人類学的アプローチと、公文書や統計といった史資料を通時的に検証する歴史学的アプローチを併用しつつ、戦跡や虐殺地となった場所の共時的かつ通時的な調査研究を行う。本年度のフィールド調査の概要は、以下の通りである。(1)平成22年6月と8月に沖縄にて現地調査を実施した。具体的な調査項目としては、第14回戦争遺跡保存全国シンポジウム(於:南風原文化センター)やシンポジウム「骨からの戦世」(於:沖縄県立博物館・美術館)に参加、シンポジウム「『骨』をめぐる思考」(於:佐喜眞美術館)にパネリストとして参加、ボランティア団体を主体とした遺骨収集事業の参与観察、戦跡や遺骨収集に関わる行政担当者や関係者への聞き取り、県内遺族による慰霊実践の同行調査、現地新聞社での資料収集などが挙げられる。(2)平成23年3月下旬から4月上旬にかけて済州島にて現地調査を行った。具体的な調査項目としては、島内各地に分布する旧日本軍関連の遺構(戦跡)・平和博物館の調査、済州四・三事件関連の遺構・記念碑(刻銘碑)・記念館・平和公園などの調査、四・三事件関連の祭祀(グッ)や追悼行事の参与観察、記念館・研究所・書店における韓国語文献の収集、現地研究者との交流などが挙げられる。なお、済州島調査においては、研究協力者である高誠晩氏の全面的な協力を得た。以上の調査研究を通して、東アジア地域における戦争、植民地、占領、戦後処理などの記憶の相関性・連続性を明らかにすることを目的とした本研究課題の端緒を開くことができた。
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