本研究課題は、「本土防衛・本土決戦」の拠点となった沖縄、済州島、松代の戦跡をフィールドとして、死者や暴力の記憶がどのように想起・忘却され、人びとの間で語られ、記念碑や儀礼を通して表象され、地域の中で(非)共有化されてきたのかを検証しようとするものである。 本年度のフィールド調査の概要は、主に以下の通りである。①平成24年6月と平成25年2月に沖縄本島、伊江島、渡嘉敷島にて現地調査を実施した。具体的な調査項目としては、集落単位の慰霊祭の調査、戦後処理の参与観察、民間巫者による慰霊実践の参与観察、戦跡ガイドの参与観察、観光業従事者への聞き取り、戦争体験者への聞き取り、精神保健関係者への聞き取り、戦争関連イベントの調査、図書館・資料館等での資料収集などが挙げられる。②平成24年9月に済州島にて現地調査を行った。具体的な調査項目としては、旧日本軍関連の遺構と戦争博物館の調査、4・3事件関連の遺構・記念碑・追悼施設等の調査、戦跡ガイドや4・3文化解説士による教育実践の参与観察、済州4・3研究所や済州大学校等での資料収集などが挙げられる。 以上の沖縄と済州島におけるフィールド調査、ならびに、これまでに収集した公文書、軍事記録、作戦文書、地域史資料、報道記録、碑文、個人・団体資料(日誌、会報等)、映像・写真資料等の史資料の分析を踏まえ、それぞれの地域固有のミクロな社会・政治状況の中で捉えられがちであった戦争、植民地、占領、戦後処理、反共などの記憶を、「本土防衛・本土決戦」という補助線を引くことで、三つの地域が共有する経験としてマクロな視点から再編することが可能となった。今後、さらなる調査結果の検証が求められるが、アジア太平洋戦争を基点とする記憶のトランスローカルかつトランスナショナルな特質を析出することができたことの意義は大きい。
|