本研究は、日本文化政策史をトランスナショナルな文脈から再考し、一国に独特な現象に見える「文化」というものが実は他国との関係から「政策」として形作られていくものであることを明らかにする。一方で日本は、戦時期には欧州の文化政策の方法論を受容し、占領期にはアメリカの文化的浸透と競う中で、自国文化に対する自信を高揚させてきた。他方、高度成長期には、自らの文化政策の経験を解放後の韓国に教示してきた。 本年度に実施したことにおいては、植民地から独立した韓国が国家再建の中で戦後日本の文化政策の方法論を導入してきた歴史的過程を研究することに集中した。このためまずは、韓国で資料収集を行った。国会図書館には、朴正煕大統領時代の文化政策資料(演説文、報告書、政府刊行書)などが多数所蔵されている他、全斗喚時代の政策に関する資料、映像などをも閲覧できるので、これらを利用した。ただし、政策だけでなく、当時の国民が軍事政権の政策をどう受け取ったのかという、政策と民族主義との関係や、社会認識の面についても調査を行うことにした。このため、韓国文化芸術振興院より発行されている『月報文芸振興』を調査し、演劇、映画、文学、歌、広告、娯楽政策報告書などの資料を収集・分析した。なお、日韓政策比較調査を行い、韓国の文化政策に影響を与え、助言を提供した日本人政治家、思想家、文化政策担当者、芸術家のエッセイなどを調査した。さらに、The Social Science and Historical Association(アメリカ)とEast Asia Institute(韓国)に参加し、最新の研究動向を把握するとともに、申請者の研究に対する適切なコメントを求めた。 上記の調査をもとにした、戦後日本の文化政策と韓国へのその影響についての成果を英文雑誌(The Journal of Korean Studies)から出版することができた。
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