本研究は、近代西欧に由来する「同性愛」という知が、非西欧社会における同性同士の親密な関係にいかなる影響を及ぼしたか、とくに「レズビアン」などと呼ばれてきた女性同士の親密な関係に注目し、近現代社会を支えたジェンダー・セクシュアリティ秩序の生成と、その過程で生み出されてきた、従来の家族とは異なる新たな親密性について考察することを目的とする。その際、日本とフィンランドという女性同性愛に対し異なる抑圧形態をもった二つの国を比較し、近代的性規範を構成する多様で矛盾に満ちた要素を浮かび上がらせながら、新たな親密性が生み出される社会的条件や政治的力学について検証する。 これまでの本研究から、戦後日本については、セクシュアリティ規範の形成にかかわる事象について広く文献調査を行った結果、同性愛批判言説は、戦後間もなく発刊された雑誌等に見られるポルノグラフィックな性描写の氾濫、赤線の成立と廃止、純潔教育に見られるような「正しい」異性愛教育、フリーセックス・ブームなどと密接に関連しつつ、戦後日本の新たなジェンダー・セクシュアリティ秩序の一翼を担っていたことが明らかになった。本研究の最終年度となる平成24年度は、このプロセスを女性同性愛に対するホモフォビアや「レズビアン」という主体が顕在化する1970年代まで射程を広げて解明するため、国会図書館等で関連資料を収集し、調査、研究を行った。その成果をクィア学会第5回研究大会で報告した。 フィンランドでは、夏に現地調査を行い、同性同士のパートナーシップ制度やレインボー・ファミリーなど、新たな親密性がいかなる社会的条件のもとに生み出されるのか明らかにするため、特に重要と思われるセクシュアル・マイノリティの「人権」をめぐる問題に着目しながら、関連する資料や文献を国立図書館等で収集した。
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