本研究の目的は、平和と武力紛争に関する応用倫理学研究において、紛争の犠牲者への回復的正義の理論的妥当性および必要性について倫理学的基礎づけを行うとともに、それを実現・実施していくための方策を示すことにある。当該年度では、(1)回復的正義の位置づけと文脈化、(2)国際法及び)「正戦論」との関連性、(3)回復的正義の実現・実施のための方策、という研究進める上での3本柱のうち、(1)にあたる、「武力紛争」の概念と諸相、また「回復的正義」の概念についての研究を行った。具体的には、まず現代における「武力紛争」を特徴づける要素を洗い出すとともに、「武力紛争」の定義付けを行った。同時に、現代の武力紛争において正義、特に回復的正義が問題となる各紛争における事例についてサーウェイを行い、回復的正義が求められる前提を探った。そのために、どのような場合において回復的正義が問題となるのか(ならないのか)を検討することにより、それらの事例の類型化を行った。また、「回復的正義」の概念を明らかにするために、「正義」概念の類型と諸相ならびに正義を構成する各要素の関係性を整理した上で、Brighouse(2006)、Schmidtz(2006)、Olsaretti(2003)の議論を支柱にして「回復的正義」と他の正義の概念との関連性ならびに「回復的正義」を構成する各要素の整理と、それら各要素間の関連性を明確にした。さらに、武力紛争において回復的正義の妥当性および必要性ついて検討し、その正当化を試みた。
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