当該年度においては、現代の武力紛争において回復的正義を実現・実施するための方策を探った。具体的には、武力紛争において回復的正義が求められる状況を創出、ないしその実現・履行が求められる行為者が従う規範および行動様式を実証研究により明らかにした。より具体的には、政府やその軍事組織による回復的正義の実施状況とその行動様式を明確にした上で、Walker(2006)の議論をたたき台として回復的正義の理念的なあり方とこれまでの現場での実施状況を指摘し、それを埋める必要性を示した。特に、シドニー大学のMinako Ichikawa Smartと共同執筆した'The Moral Ground for Reparation for Collateral Damage in Expeditionary Interventions: Beyond the Just War Tradition'では、アメリカやイギリスによるイラクやアフガニスタンへの軍事遠征介入において現地民間人が受ける付随的被害に焦点をあて、先頭における民間人犠牲者に対する補償の必要性を回復的正義の視座より検討した。また、同論文では、民間人の被害に制限を課すことを企図した正戦論の理論的空白を指摘するとともに、その空白を埋めるための原則として「補償の原則」を提案することにより民間人保護にかかわる正戦論の構造を改革するための方策を示した。 これらの実績を踏まえた上で、今後の研究の展開は、武力紛争中における補償と武力紛争終結後における補償の関係性とそのあり方を回復的正義の視座より解明することにある。
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