本年度は、「環境保全」と「資源管理」を主なテーマとして、コミュニティーの自律性に関する文献調査と事例調査を行った。文献調査では、特に「コモンズ論」に関する理論を整理し、(1)「自由の制限」と「ルールの設定」が持続的な資源管理において重要であること、並びに(2)外部の圧力によってではなく自らルールを生み出す主体的な管理の力が重要であることを認識した。新潟県佐渡市、京都府京丹後市などで行った事例調査でも、資源利用者がルールを定めることの重要性や、自ら決めたルールを守っていくためのモニタリングの重要性を認識した。コモンズ論では、「持続的な資源管理のためには、自由を制限し、ルールを定めていくことが重要である」という考えが発展するなかで、コミュニティーの自律性が強調されてきたと言える。一方、倫理では人間性に内在する自由を強調することで「自律」の概念が発展してきた。このことを踏まえると、コモンズ論における「自由の制限」と「自律の尊重」には何らかの矛盾が含まれていることが示される。地域主体の環境保全の重要性が強調されているなかで、主体性を示唆する「自由」の概念は大きな意味をもつ。本年度の研究の結果、地域環境の維持管理と保全を行うコミュニティーについて考察を深めるうえで、「自由」と「統治(ガバナンス)」の関係を明らかにすることが重要であるとの見解を得た。 さらに、持続可能な資源管理に向けたルールづくりを考えたとき、「ルールを定める主体は誰なのか」という課題を検討する必要がある。事例調査を通して、「資源管理」から「環境保全」へと視点が移行するとともに、ルールづくりに関与する主体の範囲が拡大することが明らかになった。自律の概念は、何らかの主体を前提とするため、環境倫理学的視点からこの概念の理解を深めていくうえで「主体」に関する考察も重要であるとの認識を得た。
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