本研究では、「環境倫理学的視点から自律の概念について考察し、人と環境とのかかわりを回復する論理・倫理を明らかにすること」を目的として、①倫理・環境倫理・意思決定・環境保全などにかかわる文献調査、②環境保全・再生事業における意思決定のしくみとプロセスについての事例調査、ならびに③文献調査と事例調査にもとづく概念分析という三つのアプローチから考察を進めてきた。カント倫理学で示されている「普遍的な道徳則を欲する善意志」としての自律は、全ての人に共通した倫理基盤を示すものであるが、価値葛藤を踏まえて意思決定を進めていかなければならない環境保全の現場において、具体的な道標を与えることができない。また、保全の現場では多様な主体の協働が不可欠であるため、「個人の意志」から「共同体としての意志」として「自律」を再解釈していく必要がある。すなわち、民主的な手続きにおける社会的自己としての「自律」の意味を捉えることが重要であるが、その際に浮上する課題として、ステークホルダーが広がる結果生じる共同体のアイデンティティー形成の難しさ、直面している問題と実行可能なことのギャップによるモチベーション維持の難しさなどがある。さまざまな人びとの関与を要する環境保全の取り組みにおいては、こうした課題を克服し、主体的に参加する人の輪を広げなければならない。本研究では、新潟県佐渡市の加茂湖再生、東京都杉並区の善福寺川再生などにおける「協働のプラットホーム形成」の事例分析を通して、かかわり方の多元性を育むことで地域の自然環境の問題を「自分がかかわること」として捉えることができるようになる可能性が増すこと、またアクションプランを考える意見交換の場を定期的に開くことで多層的な活動の展開につながることを示した。環境保全の取組が地域の多様な主体の自己実現につながることで、自律的な活動が可能となる。
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