本年度は環境倫理学における環境プラグマティズム以降の有力な方向性の一つである環境徳倫理学、およびその関連領域として環境保全や持続可能性に関わる道徳心理学の研究を行った。 本研究プロジェクトの主題である自然の価値の認識論という観点からいえば、これらの研究は認識対象である自然の特性ではなく、自然の価値を認識する認識主体の特性を検討する試みと位置付けることができる。これには、自然の内在的価値の存在論をめぐる議論として行われてきた従来の環境倫理学における自然の価値についての議論が陥いっていた閉塞状況から自然の価値についての議論を救い出す試みとして意義があるだけでなく、自然の価値の問題を認識主体=人間の心理的・認知的特性の問題として捉えることによって経験的・実証的な証拠に基づいて論じることができるようになるという利点も存在する。好都合なことに、心理学の分野でも自然保護や持続可能性の追求に関わる人間の心理を研究していこうという動向が環境心理学の一部や保全心理学という新たな分野として近年登場してきているので、環境倫理学はこうした領域で得られた実証的成果を積極的に参照していくべきである。 具体的には本年度は、1)環境徳倫理学という研究動向が登場してきた背景と研究の現状の検討、2)環境徳倫理学の研究が環境倫理学あるいは倫理学全般に対して与えうる影響の検討、3)環境心理学や保全心理学の現状の調査、とりわけそれらの研究と環境倫理学との接合可能性の検討、4)こうした研究動向が持つ関心と環境プラグマティズムを駆動していたそれとの差異の明確化、を行った。 これらのうち心理学分野との連携は、来年度以降も継続してより進める予定である。
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