今年度は、道徳被行為者性 moral patiency あるいは道徳的被配慮性 moral considerability の問題の検討を行った。近年この問題はロボット倫理学やコンピュータ倫理学などの人工物を対象とする倫理学の領域において活発に論じられるようになっているが、もともとは環境倫理学や動物倫理学において人間以外の自然物が道徳的配慮の対象に含まれうるかという問題として論じられたものでもあった。環境倫理学の領域においても里山や農地のような人工物でもある環境が議論の射程に入ってきている現在、道徳的被行為者性概念の有効範囲を人工物にまで拡張する議論を検討しておくことは、環境倫理学そのものの議論をより環境問題の現状に即したものとするために必要であるだけでなく、道徳的被行為者性という倫理学一般において重要であるにもかかわらず比較的マイナーな関心しか引いてこなかった主題についての検討を進めるという意味においても、重要な意義を持っている。 以上のような問題関心に基づき、ヒューマン・ショービニズムを批判する文脈において人間以外の存在に内在的価値を認めようとするリチャード・ラウトリーによる議論などの、環境プラグマティズム登場以降検討されることが少なくなった初期の環境倫理学が持っていた理論的可能性を再検討する作業が今年度の研究の中心となった。
|