本研究の目的は、ライプニッツ哲学における数学的認識のメカニズムを、想像力概念との関わりに着目しつつ、探ることにある。今年度は、アカデミー版全集哲学部門に収録されている遺稿のうち、ライプニッツが記号について議論を行っているものを選別した上で精読する作業、また、幾何学研究関連の遺稿を精読する作業を行うことで、ライプニッツが記号を用いる科学としての数学の認識の特性をどのように捉えていたのかを解明することを目指した。具体的な研究としては、パリ時代前後の普遍記号法に関する遺稿を精読し、また、ライプニッツが直線概念の分析を行っている遺稿を精読し、それらの内容を整理した上で、両者の内容をライプニッツ哲学において位置づける作業を行った。その結果、直線概念分析の背景にはライプニッツ独自の記号観があることを明らかにした。直線を幾何図形の構成要素として捉えたデカルトとは異なり、ライプニッツにとっては直線は原始概念ではなく、さらなる分析を許容する対象である。そのため、幾何図形としての直線に依存した推論を行う限りでは、直線に関して判明な認識は得ることができない。こうした考えは、ライプニッツが幾何学から図形を排除することを試みていたことと整合する。しかしその一方で、ライプニッツは論理学研究においては幾何図形を用いて命題間の推論関係を視覚化する試みを行っている。こうした事実に加えて、『結合法論』の頃からライプニッツは記号の形状や配列にも関心を持っており、普遍記号法の構想にはこうした記号観が反映されている。したがって、ライプニッツの数学的認識をより正確に捉えるためには、図形や記号に関する考えを慎重に検討する必要がある。こうした知見は数学的真理の同一性真理への還元を強調する従来のライプニッツ数理哲学の解釈に再考を促すものである。
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