研究課題/領域番号 |
22720010
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研究機関 | 公立大学法人北九州市立大学 |
研究代表者 |
伊原木 大祐 公立大学法人北九州市立大学, 基盤教育センター, 准教授 (30511654)
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キーワード | 身体論 / 宗教哲学 / 現象学 / キリスト教 |
研究概要 |
当該年度の研究では、ミシェル・アンリによる「生の現象学」思想に依拠しつつ、そのキリスト論的な視点と文化論的な視点とが交差する地点から「悪の問題」を考察するという方途が採用された。具体的には、前年度の成果(論文「生の自己刺激-アンリのフロイト読解をめぐって」『ミシェル・アンリ研究』第1号に掲載)に基づいて、初期から晩年まで一貫しているアンリ身体論の「性(セクシュアリテ)」に関する言説を徹底して分析し、それが『野蛮』(1987)以降で展開されるアンリの現代文明批判とどのように関わっているかを示すことで、悪の問題の解明に向けてさらなる前進を果たすことができた。また、前年度に考慮の対象となった古代キリスト教の身体論と結びつけることで、アンリ思想の宗教哲学的側面にも光を当てることができた。これに関する主な成果は以下のとおりである。 1、一部公表されたばかりの初期草稿を参照しながら、主にアンリ晩年の著作『受肉』(2000)で展開される「エロス的関係」の現象学的身体分析を取り上げ、このテーマに関する総体的な考察を行った(未刊論文「欲望の失敗-ミシェル・アンリと性の問い」)。その結果、アンリ思想においては悪の問題が世界における脱自的客観化の機構と深く連関することが明らかとなった。 2、アンリ現象学による性的身体へのアプローチが特異なものであることを強調するため、レヴィナスが『全体性と無限』で提示した「エロスの現象学」を比較参照しつつ、両者の異同を明確にする作業を行った(発表「愛撫と官能」)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アンリ現象学の身体論に性という観点から光を当てることで、当初の研究計画で目標とされた中心的な議論(「悪の問題」)に到達することができたため。
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今後の研究の推進方策 |
今後は他の思想家たちとの比較を通じて、アンリ悪論の射程を見極めていきたいと考えている。当初はリクールやナベール、ラヴェルらとの比較を考えていたが、これらの思想家には性に関する哲学的考察が欠けているため、十分有意義な比較にならない可能性が出てきた。そこで本年度末より、アンリ研究と並行して、ジョルジュ・バタイユの内的経験論を元にした悪論の研究に着手している。間にレヴィナスを介在させてバタイユやアンリを考慮する中で、あらためてグノーシス的二元論のテーマ系に取り組む必要が出てきた。その過程ではシモーヌ・ペトルマンによる諸研究が導きの糸として役立つものと想定される。
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