研究概要 |
・2011年10,月、東北大学倫理学研究室発行の「モラリア」に、価値の共約不可能性に関する論文を発表した。この論文では、善き生や社会規範の根拠となる価値は相互に還元不可能であることを示し、一個人の内部でそのような根本的な価値どうしが衝突したときにどのような解決が図られうるか、について論じた。本研究の主題は、反省概念の変遷をたどり、その多義性を明らかにすることにあるが、価値をめぐる考察はこの主題と深い関わりを持つ。なぜなら、反省という言葉が指し示す知的営みのうち、主要なものの一つとして自己批判があり、これは、自分が選択・行動の根拠としている何らかの価値に対し、別の価値をオルタナティブとして立てるところに成立するからである。言い換えれば、自己批判としての反省は、自己の内部に複数の価値が存在することを条件としており、異質な価値の衝突を解決に導くプロセスは自己批判の具体的内実と重なり合うのである。本論文は、倫理の領域での共約不可能性を主題とし、また一個人内部における価値の対立に光を当てた点に、独自性があると言える。研究計画では、平成23年度に主に英語圏の研究を調査する予定であったが、本論文を準備する過程で、Th.ネーゲルとB.ウィリアムズを中心に予定通り十分な調査が実施できた。論文執筆とは別に、研究計画では,研究上のアイデアを得るためにブラウン大学のCh.ラルモアを訪問する予定になっていたが、これも実施した。さらに、フランス・トゥールーズ大学のP.モンテベッロにも面会してビラン研究に関する討議を行い、有益なアドバイスが得られた。
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