平成22年度は、アリストテレス研究から出発した。具体的には、1)『プロトレプティコス』、2)『デ・アニマ』、3)『ニコマコス倫理学』を、専門二次文献ならびに当該巻についてのハイデガーの解釈などを参照しつつ精読した。それによって本研究(「新しい知識像のために-生のロゴスとしてのフロネーシス」)全体にとって不可欠の部分的成果として明らかとなったのは、a)『プロトレプティコス』におけるアリストテレスの議論は、フロネーシスという知のあり方をめぐってイソクラテス的弁証術とプラトンのイデア論を調停しようとする試みとして読めるということ、b)『デ・アニマ』におけるアリストテレスのいわゆる「心の哲学」を、ハイデガーがどのように自らの「現存在(Dasein)」という概念のうちに取り込んでいるか、c)『ニコマコス倫理学』第六巻における「魂が真理に到達する六つの仕方」についての議論が、ハイデガーの「世界内存在」という概念に決定的な影響を与えているということ、などである。(22年度の研究によってハイデガーのアリストテレス解釈に関して明らかとなった点のいくつかは、雑誌論文「現象と文法-ハイデガーとウィトゲンシュタイン」に取り入れられている)。他方で、当初は22年度に完遂する予定であったカント研究(『判断力批判』の研究)は、残念ながら時間的余裕の不足のため具体的な成果を上げるまでには至らず、次年度に持ち越しとなった。
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