本年度(平成25年4月1日~平成26年3月31日)の研究は、研究実施計画通り、フレーゲの「解明」という方法を『論理哲学論考』におけるウィトゲンシュタインの哲学的方法の先駆として読み解くことを目指して、フレーゲの全著作を綿密に研究し、その成果を論文「フレーゲの「形而上学」と「方法」――汎論理主義と解明――」として公刊した。そこで明らかになったことは、(1) フレーゲの数学の哲学における立場である「論理主義」は、彼の隠された形而上学的根本前提(これをヘーゲルの立場に倣って「汎論理主義」と呼ぶ)によって動機づけられているということ、(2)この汎論理主義が、フレーゲに、彼の革新的な論理的表記法である概念記法の説明にあたって、「解明」という特異な方法をとらせたということ、(3) 従来は、「普遍主義」と呼ばれるフレーゲの論理学上の立場が彼に解明という特異な方法を採用させたと解釈されてきたが、むしろ、論理学における普遍主義と論理的表記法の説明における解明という方法は、フレーゲの汎論理主義によって必然的に要求されたものであるということ、(4) ところが、この汎論理主義こそが、フレーゲの(数学の哲学における)論理主義を破綻させる原因となったということである。この研究成果の意義は、この解釈によって、(1) 晩年になってフレーゲが論理主義を放棄した後でも、「個数言明は概念についての言明を含む」という考えを彼が保持し続けた理由が説明され、(2) フレーゲにメタ言語とそれによって与えられる対象言語(概念記法言語)の意味論は見いだせるかという近年の論争に見通しをつけることができたということにある。後者について今年度の研究によって明らかとなったのは、メタ言語によって与えられる意味論という発想は、汎論理主義という形而上学的前提によって不可能であったし、そもそも不必要であったはずだ、というものである。
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