研究課題/領域番号 |
22720013
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研究機関 | 創価大学 |
研究代表者 |
伊藤 貴雄 創価大学, 文学部, 准教授 (70440237)
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キーワード | 哲学 / 倫理学 / 思想史 / 平和論 / カント / フィヒテ / 徴兵制 / 世界市民 |
研究概要 |
1、昨年に引き続き、大別して二つの方向から研究を進めた。(1)カント自身の政治思想の内実を精確に把握する作業。(2)カント没後の平和論受容史を探索する作業(本年は、[i]19世紀初頭ドイツ、[ii]19世紀中盤~後半ドイツ、[iii]19世紀末~20世紀初頭日本、に分けて推進した)。 2、上記(1)については、カント平和論の理論的中核をなす「世界市民」概念の形成過程を跡づけた(論文「カント世界市民論の成立原点」)。また、この世界市民主義が18世紀末以降、国民国家思潮との間に孕んだ緊張関係について、徴兵制論を中心に検討した(論文「永遠平和論の背面」、発表「『ドイツ哲学と政治』再読」)。以上により、カントにおける「反徴兵思想」の所在を可能な限り析出した。 3、上記(2)については、[i]対仏解放戦争期のフィヒテの徴兵制論に注目し、カントの世界市民主義がドイツの国民国家思潮と一体化していく過程を考察した(論文「永遠平和論の背面」の一部)。[ii]このフィヒテの路線が、同戦争終了後の反動期ドイツでどう受容されたかを、ヘーゲル法哲学との関連で調査した(発表「ショーペンハウアーのペシミズム/ニヒリズムと国家共同体論」の一部)。併せて、19世紀後半にヘーゲル学派に対抗し、カント主義を掲げたイェリネクの法思想も調査した(発表「ライプニッツとショーペンハウアー」)。[iii]以上のもろもろの思想因子が、19世紀末~20世紀日本でいかに受容されたかを跡づけるべく、内村鑑三や朝永三十郎の著作を分析した(論文「近代日本における世界市民の概念史」、発表「政治学と哲学の饗宴」)。なお、論文「意志の否定は道徳の否定なのか」も、一部でカント平和論受容史に言及しており、間接的に関係のある成果である。 4、以上の内、(2)の[i]~[iii]に関してその細部を詰めていくこと、および、本年着手できなかった20世紀ドイツのカント受容史にも調査を広げることが、次年度の課題となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
カント自身の政治思想(とくにその世界市民主義)を精確に把握する作業に時間を費やしたため、本来の主題である<受容史>の研究に割いた時間が相対的に少なくなったこと、また出版準備中の博士論文『初期ショーペンハウアーの社会哲学的研究』のための作業も重なったことが、本研究が遅延気味となった原因である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの調査内容の内、とくにフィヒテとヘーゲル(及びヘーゲル学派)に関する研究の精度を高めるべく、彼らの政治思想が有する<両義的性格>(保守的側面と革新的側面)をていねいに把握しながら、彼らの徴兵制論とカント平和論との関係を検証したい。その際、19世紀前半についてはクラウゼヴィッツの軍事思想との関係、19世紀後半についてはマルキシズムの軍事思想との関係も新たに視野に入れたい。また、日本のカント平和論受容史については、資料を集めたものの分析作業に入っていない題材が多数あるので、急ぎその検討も進めたい。
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