本年度はポルピュリオスに関する文献を調査し、文献表(1995年以降の出版物)を作成の上、ウェブ上で公開した。さらにポルピュリオスに関して最近出版された主要な研究書を入手して読んだ。日本では手に入りにくい文献のいくつかについては、イタリアの学会の際に大学図書館でコピーした。研究費によって入手したこうした文献情報の詳細・短い書評については、プロジェクト用のブログ『ポルピュリオスとポルピュリオスの伝統』で公表した。また、ポルピュリオスの菜食主義についての一次文献である『肉食の禁忌について』を読み始めた。 アウグスティヌスは、ポルピュリオスの影響もうけながら独自の言語哲学を展開したと考えられている。アウグスティヌスの言語哲学の中のポルピュリオス的側面とそれ以外の側面を意識しながら、アウグスティヌスの記号論・言語論について研究し、とくに「嘘」という概念に焦点をあてて、関西哲学会で発表した。そして発表内容についてまとめた論文は、査読・修正を経て『関西哲学会年報』次号に掲載されることが決まっている。 ポルピュリオスの論理学・言語哲学を知る上で主要な資料となる、ボエティウスの『アリストテレス命題論注解』研究(英文単著)について、査読の結果を反映し、改稿を重ねて、再投稿した。この研究書は、今まで十分に強調されてこなかったポルピュリオスとスコラ哲学を繋ぐリンクの存在を明るみにだすものとなっている。 ボエティウスによって受け継がれたポルピュリオス的伝統を独自の仕方で発展させたプロクロスとオッカムの著作について、翻訳を行った。前者については『摂理についての十の問題』の前半五問分を、私を含む新プラトン主義協会のメンバーで訳出した。後者については、『自由問題集』第四巻の日本語訳(故渋谷克美教授によってなされないままに残された最後の三問分)の訳出・校正をおこなった。
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