本年度は、主として『小学』の諸本を博捜し、実見してその流布を調査した。明代の註釈書は大別して三つの流れがある。一つ目は何士信『小学集成』で、これは陳選『小学句読』へと繋がる。二つ目は、程愈『小学集説』と王雲鳳『小学章句』で、『小学集説』は朝鮮で重視され、『小学章句』は日本で重視されたが、両書とも中国では読者を得なかった。三つ目は、明末に『小学』を郷学で教えるよう聖諭が出された後、朱熹の本旨を敷衍したものである。『小学』の思想研究を進める上で、近世東アジアには、上記三つの流れが絡まっていることを整理した。 上述の内容を、2010年11月6日の第60回東方学会において「『小学』再考一その思想研究の可能性を求めて-」と題し、中間報告を行った。 また日本漢学方面では、蟹養齋の『読小学記』についても調査を開始し、2010年7月11日に「蟹養齋の講学」と題し、発表を行った。これら、東アジアにおける『小学』の受容を考える際に、従来手つかずであった『小学』の基礎的な系統整理をしたことは、関連する研究分野にとっても非常に有効な成果だと考えている。
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