昨年度は書誌的な調査を主として進めていたが、本年度は朝鮮儒学を中心に研究を進めた。10月15日、韓国陽明学会において、「沈錆と李震炳と李星齢-鄭斉斗の周辺-」を発表した。陽明学が朝鮮に伝わって以降、異端視されていた陽明学を本格的に唱道した鄭斉斗(1649~1736)登場までの間、朝鮮儒学は如何なる様相であったのかを考察する手がかりとして尹拯門下の思想と鄭斉斗の関係を明らかにした。従来の研究では、鄭斉斗=陽明学という視点からアプローチするものがほとんどで、彼が父の墓碑の執筆を依頼した宋時烈との関係や、鄭斉斗を取り巻く思想空間を検証することはなかったので、そういう点では新たな試みと言える。現在の視点から朱子学・陽明学と区別するのではなく、あまり知られていない門人の文集や墓碑を主資料とした同時代的な視点から検証することで、現行の『霞谷集』の外側から思想的な様相を提示した点に意義がある。 またこれ以外の研究実績として、7月21日にソウル大学奎章閣で開催された「18世紀東アジア社会の学術と知識集成」で、コメンテータを務めた。その際に、明清交代時期の日本思想史における考証学研究に対して、朝鮮北学系の知識人たちは、中国清初の考証学文献のみならず、日本の西洋に対する学問文献さえも考証学の対象に含んでいるという東アジア思想史における問題点を指摘した。 更にそれ以外の研究実績として、朱子学及び『小学』・『家礼』の受容や展開を調査する上での基礎的研究として、数年来『朱子語類』礼記部分の訳注を毎年定期的に発表している。今年度担当部分は、『朱子語類』檀弓下~王制までであるが、来年度の出版をめざし、鋭意進行中である。
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