研究課題/領域番号 |
22720023
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
BASKIND James 九州工業大学, 大学院・情報工学研究院, 准教授 (50455226)
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キーワード | 黄檗宗 / 禅浄土思想 / 当麻曼荼羅 / 江戸思想史 / 妙貞問答 / 桃蘂編 / 道教 / 明末仏教 |
研究概要 |
この年度の研究成果は、近世の日本仏教界における黄檗宗の位置づけを取り上げるものです。黄檗僧は来日した時点から零落した明末の禅浄融合体と非難されたにもかかわらず、閉鎖的近世社会では強い位置を確保できたのである。他の流派から教学的に批判の対象になったが、徳川幕府、皇室に優遇されたため、江戸の仏教界、美術界、そして思想史にも消えない跡を残したことになった。しかし、1680年に、黄檗宗の確保者であった後水尾天皇と徳川家綱がなくなり、以前揺ぎ無かった黄檗宗の社会位置が困難になってきた。そこで、『桃蘂編』という書物が現れ、内容は中国の有名な仙人である陳博が日本の天子(霊元天皇となった人物)の誕生を隠元に予言したということである。報告している年度の研究成果はこのテキストを取り上げ、どのように黄檗宗が社会的位置を確保できたかということを検討する。この研究の意義の一つは、日中交流史のあまり知られていないこのエピソードに新たに光を当てることにある。もう一つは、拙論には『桃蘂編』の道教的性格を述べながら、日本の皇室も道教的要素が多々あることを論じ、日中の文化の共通のルーツを検討した。『桃蘂編』の序は霊元天皇が書き、陳博とその予言を褒め称える。それはなぜか。論文の説は、18世紀のはじめのころに幕府の政策による、皇室の逆境を改善するため、中国の仙人が霊元天皇の誕生を予言したということ主張することによっては、日本の皇室が中国の神々(仙人)にも認められることになり、社会位置や権威を上げるこどに繋がると。この歴史的エピソードを明らかにすることが日中文化史のあまり知られていない面を見せてくれる。これからの研究は黄檗宗の教学、日中の禅と浄土の交流史を取り上げ、検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね順調に進展していると思います。黄檗宗の社会的位置確保の歴史的背景を発表し、次は近世の仏教にその思想的貢献を検討したいと思います。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策は当麻曼荼羅(浄土変相図)をめぐって黄檗宗と日本浄土宗の交流史、共通点、相違点を取り上げ、研究する予定である。独湛という黄檗僧が当麻曼荼羅を見て、非常に感動したため、縁起文を書き、弟子の道章が図を付した。独湛が浄土宗の日本人の僧侶と交流し、明末仏教と日本の近世仏教の禅・浄における言説の共通点と相違を物語る一齣である。そして、当麻曼荼羅の中将姫伝説も中国に輸入し、その形跡を追っていく。もう一つの研究動向は近世思想史における『妙貞問答』である。キリシタン視点から日本思想システムを論破しているため、当時の仏教・神道・儒教の言説のあらたな顔を見せてくれる文献である。この文献を研究・英訳することによって、多くの研究者に『妙貞問答』に見られる、江戸時代の多様な思想形態を知ってもらうためでもある。
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