研究課題/領域番号 |
22720023
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
JAMES BASKIND 九州工業大学, 情報工学研究院, 准教授 (50455226)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 仏語 / 仏教学 / 思想史 / 宗教学 / 中国哲学 / 江戸の精神史 / 黄檗宗 / 浄土信仰 |
研究概要 |
禅宗(自力宗教)と浄土教(日本の浄土宗と浄土真宗にあたる他力宗教)とは反対の宗教表現とされることが多い。二元論的思索を超越し、悟りに到るよう勤める禅宗と、自分の力の不足に気付き、阿弥陀仏に頼って、他の力で(阿弥陀仏)救済を求めるという二つの宗教形態や言説は日本の精神史の中核を占める。しかし、このような思想などは、江戸以降形成するようになったものである。思想の坩堝であった江戸初期の宗教形態を研究するには、日本思想システムとキリスト教との交流を研究すべきであるように思う。16・17世紀に来日したキリスト教宣教師の世界観には人間界に介入する絶対的・全能の神、輪廻を認めない永住不朽の霊魂観、そして、永遠の天国と地獄の後生観などは、日本人の考え方や人生観に大いなる衝撃を与えた。だから時代背景を考察するにあたり、キリスト教と仏教との相互理解、交流も検討すべきもので、大変重要な関係である。そのため、研究の発展や進化に追って、今年の研究の主軸となしたものは、禅・浄土・キリスト教の世界観や後生観であった。現在、研究している『妙貞問答』という江戸初期のキリスト教の護教書は日本人の元禅僧の不干斎 巴鼻庵の手によるものであった。テキストの中身としては、キリスト教の視点から、仏教の各宗派、儒教、と神道を論破非難する。論点の中心は、仏教(儒教にも神道にも同じ論理をあてはめる)は「空」や「無」に帰着するものなので、後生の救いはないということである。テキストは「空」や「無」をキリスト教の絶対「有」の神と比較対照させながら展開していく。禅宗は「空」に基づいた悟りを目的にすると論破され、浄土の往生も阿弥陀仏も同じく「空」であるので、浄土教も救済にならないとハビアンは論じる。この世界観、後生観の衝突を検討することによって、江戸初期以来の日本人の人生観や後生観を理解する上では非常に大切な手がかりになるかと思う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの達成度は大体順調に進んでいることだと思います。禅宗と浄土教(浄土宗と浄土真宗)をめぐって江戸初期の超越・救済思想を検討してきたため、必然的に研究範囲を広げ、江戸初期のキリスト教と仏教・儒教・神道との交流も検討範囲内に入れてきた。研究テーマが進化し、広くなったため、計画通り進んでいないが、考察と発見もそれに相応しているものである。
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今後の研究の推進方策 |
上述のように、研究方向が進化し、多少の変更があるかのように見えるが、本来の禅浄思想・他力/自力の宗教形態を江戸初期に検討するには、キリスト教思想も範囲内に置いておくことが自然な発展だと思う。江戸初期にはいろいろな思想や世界観が競い合い、波乱の時期だった。研究の対応策としては計画通りの禅浄・自力宗教と他力宗教をめぐっての後生観の検討を続けながら、キリスト教も視野に入れ、江戸初期の信仰・救済言説を一段と深く追求していきたいと思う。
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