平成25年度の研究活動は、江戸初期の仏教思想形成を主に取り上げてきたものである。本来の研究課題は、江戸時代の仏教思想や文化形成史において黄檗宗が果たした意義・役割を明らかにすること、そして自力仏教と言われる禅と他力仏教と言われる浄土教の両者がどのように禅浄兼修概念の形成に結びついていったのかを明らかにすることであったが、研究が進めば進むほど、江戸仏教や思想形成を十分に検討するため、研究範囲をさらに広げていく必要があることに気づいてきたのである。そのため、戦国末期・江戸思想に多大なる影響を与えたキリスト教、そして、その護教書と反駁書の両方を研究範囲内に入れ、霊魂観、後生観、救済観などを中心に研究してきた。この研究に当って、主に取り上げてきた書物は、日本人のキリスト教改宗者である不干斎ハビアンの手による『妙貞問答』であり、その中、仏教、神道、儒教と幅広く日本の思想システムを批判する中、当時の日本人やイエズス会の日本思想における理解を測ることができるため、大変貴重な資料である。今年度やってきた仕事は、江戸期の仏教思想形成や仏教とキリスト教との交流についての研究成果を発表してきた。まず、『妙貞問答を読むーハビアンの仏教批判』(末木文美士編、2014年)に「妙貞問答の禅宗批判ーその空と無について」を発表し、そして Religion Compassに"Christian Buddhist Polemics in Late Medieval/Early Modern Japan (Religion Compass 8/2 (2014) 37-48も発表することができた。最後の25年度の業績は、黄檗宗と当麻曼荼羅との関係を語る、「資料紹介:「念仏」独湛の『翻刻当麻図記』ーその背景と内容」を発表できた(九州工業大学大学院情報工学研究院紀要(人間科学)27号平成26年3月)である。25年度の研究実績の概要は上記の通りである。
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