本年度は、本研究の第一年度として、西洋神秘主義に大きな影響を与えた新プラトン主義者であるプロクロスの著作『ティマイオス註解』を主に研究を進めることにした。しかし、同書は註解としての性格もあって余り体系的とは言えないにもかかわらず大部であるため、プロクロスにおける哲学的な骨格を押さえた上で箇所を絞り込む必要性が高いことが分かり、体系的に書かれた『神学綱要』の検討を先に行うことになった。これを踏まえ、宇宙と人間に交差した知的要素のうち「気息」(プネウマ)および「乗り物」(オケーマ)をめぐる問題圏を取り上げ、これについて「神に似ること」というプラトン以来のテーマを念頭に置きながら究明を進めた。また、申請者がこれまでに論じてきたプラトン『ティマイオス』に対する現代の宗教思想における反映についても、「創造」および「想像」という論点を設定し、改めて考察を加えた。 こうした研究成果は、後者については8月にカナダのトロント大学にて開催された第20回国際宗教学宗教史会議にてパネル発表を行い、海外の研究者と意見交換を行った。前者については9月に東京の東洋大学にて開催された日本宗教学会第69回学術大会にて発表を行ったほか、年度内に図書(論文集)に論文を発表することになっていたが、震災の影響もあり目下の予定が繰り下げられている。また、本年度には、事典の執筆依頼を受け原稿を提出しているが、順調に進めば次年度に刊行される予定である。
|