本研究は、近代の政教関係を再検討し、ライシテ(非宗教性、政教分離、世俗主義と訳される。)を、これからの社会の共生の原理として再構成するための基礎をなすもので、「フランスのライシテの批判的見直し」と「ライシテの脱フランス化」を2つの大きな柱としている。 1点目について、本年度はまず、ライシテの歴史のなかでの変化と現代の動向について、広い読者に向けた論文「ライシテの変貌」(『ソフィア』)を発表した。ライシテ研究の動向については、マルセル・ゴーシェ、ジャン・ボベロ、ルネ・レモンという3人の研究者の方法論を比較検討した「ライシテヘの3つのアプローチ」を『宗教法』に発表した。他方、フランスにおける宗教学・宗教研究の発展の様子をたどりながらその特徴を浮き彫りにする論文を執筆した。また、ライシテの近代にカトリックがどのように適応してきたかという観点から、19世紀末から20世紀初頭にかけてのカトリック社会運動(マルク・サンニエの「シヨン」)に注目し、講演や研究発表を経て論文にまとめた。さらに、ルソー生誕300年を記念して東京で行なわれた国際シンポジウムにて、19世紀フランス思想におけるルソーの「市民宗教」概念の受容のありかたについて発表し、その内容をフランス語の論文にまとめた。 2点目にかんしては、本年度は『ヨーロッパ研究のすすめ』に論文「ヨーロッパの宗教」を寄せ、フランスを含めたヨーロッパの国々の宗教状況の歴史と現状について、各国や地域の特色がわかるように論じた。他方、日本のライシテについては、現代ケベックにおける「教育の危機」にちなんだ企画に「日本の学校の危機」に関する論考を寄せ、近現代日本の教育の構造的問題を同定しながら「宗教的なもの」の位相について論じた。
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