本研究課題では、連邦の国立学校において現在行なわれている宗教文化教育(科目名「宗教文化と世俗倫理の基礎」)について、おもに文献資料をもとに考察を行なってきた。本年度は、これまでの研究成果をまとめることを念頭に、(1) 宗教文化教育の必要性がどのような文脈で議論され、実施へと至ったのか、(2)上記(1)と関連して、ソ連解体後のロシアの「宗教復興」を他地域との比較を視野に入れた場合、どのように位置づけられるのか、を中心に考察を行なった。 (1)については、以下の二つの視点から考察を行なった。ひとつは、ロシア愛国主義の再考という視点である。この点については、その成果の一部を国内の学術大会で発表した(発表題目「2000年代における『ロシア人論』―ロシア愛国主義再考―」)。この発表は、ロシア愛国主義をめぐる議論が宗教文化教育の世論形成にどのように関わっているかという関心をもとに、2000年代における愛国主義的言説を分析したものである。いまひとつは、ソ連解体後のロシアにおける外来宗教の活動がロシア国内の世論形成に与えた影響という点である。その成果の一部が、「今なおロシアで続くオウム真理教の活動 ―日本とロシアの並行現象―」である。 (2)については研究成果を次年度に刊行予定でいる。 なお、出産・育児休暇の復帰後、研究環境の整備に予想外の時間がかかった。この点については今後の課題としたい。 今後は、ロシア全土で実施が開始された後の宗教文化教育をめぐる議論について、世論形成の場とそのプロセスという視点から、さらなる考察を試みる予定である。
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