本研究は、近代フランスの啓蒙思想における未開論をめぐる言説を通して、近代ヨーロッパのマイノリティ論を検討することから出発し、本年度は、功利主義や経済的合理主義とは区別された共感や憐憫の情などの、利他的感情に関わる政治的諸価値が、デモクラシーの成立期や植民地の拡大する中、どう論じられていくのかに着目した。啓蒙の合理主義に反してディドロが非理性的な存在や想像力の役割を高く評価した点、それが植民地の問題にもつながったこと、さらにはルソーが人類愛の育成につながる市民の教育を論じた一方で、利他的感情の限界と親密な政治空間の必要性を論じた点などを分析した。さらに、古代から近現代に至る、共感、同情、慈愛などの諸観念の変遷史も明らかにしたが、以上の検討は、貧困や格差社会など様々な社会的な問題との関連で着目されるものであり、現代の社会的課題にも繋がるものである。これらの研究成果は、発表論文・著作の中に活かされているほか、次年度に、「共感」とのタイトルで(『政治概念の歴史的展開 第8巻』晃洋書房)の中に論文として公表する予定である。
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