研究課題/領域番号 |
22720045
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研究機関 | 群馬県立女子大学 |
研究代表者 |
大野 陽子 群馬県立女子大学, 文学部・美学美術史学科, 講師 (80512938)
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キーワード | 北イタリア / 聖母図像 / カトリック改革 |
研究概要 |
中世に発生し、近世に消失した樹上に聖母子を表した図像「樹木の聖母」の伝播の実態は美術史研究者や図像学研究者の間でも十分に認識されておらず、その残存事例の報告、図像の伝播、変容に関する個別研究は美術史学、図像学に大きく寄与する。対抗宗教改革期にカトリック教会による宗教画像の統制の対象となった同図像の実態の把握により、宗教画像の統制と「民衆の信仰」に結びついた図像の関係を解明でき、16,7世紀における画像の受容の諸相を明らかにできよう。 研究二年目である23年度の海外調査では、北イタリア、ロンバルディア地方においてコモのサンタ・マリア・デッラ・ノーチェ聖堂、ピエモンテ州においてクネオのサンタ・マリア・デッロルモ聖堂、プラート・セジアのサンタ・マリア・デッラ・クエルチャ祈祷堂、モンクリヴェッロのベアタ・ヴェルジネ・デル・トロンポーネ聖堂の現地調査を進め、ミラノおよびトリノの国立図書館、司教区古文書館などで上記聖堂に関する資料調査を行った。文献資料を精読した結果、コモ、クネオの事例は「樹木の聖母」の事例としては不適切と判断し、今後の調査から外した。カトリック改革期の重要な事例と判明したモンクリヴェッロについては古文書資料が収蔵されている新設のヴェルチェッリ司教区古文書館が機能しておらず調査は二次資料までに留まった。25年度の本調査の準備として、16世紀にはミラノ大司教区管区内であったスイス南部ティチーノ地方(アスコーナ、サンタ・マリア・デッラ・ミゼリコルディア聖堂、ロンコ・ソプラ・アスコーナ、サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ聖堂、サン・マルティーノ聖堂)で作例を実見し、参考文献をミラノ市立美術図書館、ミラノ大司教区古文書館などで閲覧、収集した。国内ではこれら収集資料の分析と、次年度調査の準備としてヴィテルボの巡礼地に関する文献精読を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成21年秋に申請後、勤務先が変わり、申請時に想定していた研究環境ではなくなったことで、国内での資料収集がかなり困難となり、当初予定よりもエフォートを低くせざるを得なくなった。海外調査については比較的順調ではあるが、短い調査期間内に回れる土地が限られていることや、調査資料館の機能不全などもあり、一事例について年をまたいでの調査となり、調査結果の総括と発表は後回しとなっているという現状である。
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今後の研究の推進方策 |
過去2年の研究によって「樹木の聖母」から「ロザリオの聖母」図像への変容という新たな研究の焦点が浮上してきている。とりわけ24年度の調査対象であるヴィテルボの「樫の木の聖母」巡礼地については、この問題を等閑視できない。今回の研究課題の範囲内では「樹木の聖母」の生成、残存に論点を絞っているが、より広い視座を得るために、残る二年の研究機関においては過渡期の「ロザリオの聖母」を含む事例調査を「樹木の聖母」のそれと平行して進めていく。「樹木の聖母」崇敬自体、予想よりも広く伝播していたことが判明してきたが、事例のなかには直接、参考資料のないケースもあり、「樹木の聖母」データベースは二次資料に基づくものとする。
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