美術史及び図像学研究において十分に認識されておらず実態が知られていない、「樹木の聖母」図像に関する本研究では、中世から近世初期にかけての当該の聖母像への崇敬の全体像を把握すべく、多数の巡礼地があるイタリアとスイス南部に調査地域を絞り、現地調査と資料調査を行った。その結果、同地域にかけて120余の「樹木の聖母」巡礼地が現存することを確認した。巡礼地の創建伝承、巡礼地の地域分布の傾向、図像の分析から、「樹木の聖母」は、異教的イメジャリの農村部への残存という理由だけではなく、「樹木の聖母」の視覚表現(図像)がキリスト教の正統的な図像と相互関係にあったことに由来するのではないかと指摘した。
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