中世日本で、経典に基づく詞と絵を備える絵巻が果たした絵画史上の役割を、作品調査に基づく詞と絵、また典拠経典の分析を通じて考察した。本研究期間内に計 11 件の作品調査を実施したほか、写真などを用いた画像資料の収集を行った。その結果以下の三点に関する新知見を得た。 (1)鎌倉時代の絵巻に描かれる閻魔王庁の場面には、『白宝口抄』などに掲載される図像や経説からの影響が濃厚であり、 経説絵巻と密教図像集との制作環境の近さがうかがわれる。 (2)唐末~宋代にかけての作例が残る「十王経図巻」の図像からの影響は、13 世紀後半の日本における作例である聖衆来迎寺蔵「六道絵」(掛幅)にも痕跡をとどめており、絵入りの経巻は中世日本の仏教説話画の図像的淵源のひとつであった。 (3)従来、経説との関わりについては等閑視されてきた「伴大納言絵巻」の図像分析を通じ、同時代の「六道絵」をはじめとする浄土教絵画と共通する図像パターンについて指摘した。 以上の成果の一部は、「聖衆来迎寺蔵「六道絵」閻魔王庁幅と焔魔天図像」(『共立女子大学文芸学部紀要』58、2012 年)、「鳥羽炎魔天堂の場と造形」(『仏教美術論集4 図像解釈学-権力と他者』、竹林舎、2013 年)などの出版物として公刊している。
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