本研究は、南アジアにおける仏教説話図の受容と伝播の様相を建築空間と表象の相関関係のなかで読み解くもので、本年度は、主にガンダーラ、アジャンター等の石窟、スリランカ(ティヴァンカの他、キャンディ時代の壁画)を調査し、それらの成果は、次の2件について研究発表を行った(2012年12月16日基盤研究A『ガンダーラ美術の資料集成とその統合的研究』「ガンダーラ・インドの仏教美術」/於:龍谷大学)。まず、ガンダーラで近年新たに発掘されたジナンワリ・デリ出土壁画が、同地域の彫刻や中央アジアの壁画が示す図像や様式とは異なり、アジャンター後期壁画に非常に類似する面を有し、同時期の制作の可能性、また説法印仏陀像であることから、同地で流行する仏説法図との関連から西インドから西北インドへの図像の伝播がなされたことを指摘した。次に、アジャンターにみる授記説話や降魔成道など石窟内で特殊な位置に配された説話図やアジャンター末期の仏説法浮彫図中に、ガンダーラにみる花輪を掲げるプットの図像的影響を受けつつ、西インドでは宝冠を掲げるガナとして図中に現れ、しばしば石窟入口装飾の中央を飾る場合のあることも指摘した。この現象は、説話主題の石窟における機能とも関係して釈迦をはじめとする仏陀への観念、地上の歴史的存在としてではなく、普遍性を有する仏陀観への過程を示すモティーフとして把捉できる。石窟内における本尊は後にエローラでは初転宝輪を主とする仏説法図像ではなく、降魔成道へと移り、多くの菩薩像や過去七仏等と表されるようになり、時間軸と仏教パンテオンの具体化が進む一方で、興隆するヒンドゥーとの対立が説話図像として定着しはじめるのである。この点を含め、本研究成果は、研究代表者のこれまでの研究と統合し、平成25年度科学研究費補助金(研究成果公開促進費)による『アジャンター後期壁画の研究』として出版する予定である。
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