本研究は、平安時代前期の造営組織の実態について研究を深めつつ、当該期の彫刻作品の再検討をすすめることを目的としている。本年度は、定額寺として認定される以前の寺(ないしは堂)のためにつくられた仏像を選定して実施した。調査対象としたのは、滋賀県近江八幡市に所在する大嶋・奥津嶋神社地蔵堂の地蔵菩薩立像である。当該地蔵菩薩像は初期一木彫像の優品であるとみなされてきた。また神社につくられた仏教施設に安置された仏像であり、初期神仏習合のなかでつくられた仏像としてかねてより注目されてきた像である。ところが、頭部が後補の漆箔に覆われており、彫り直しもみとめられるため、頭部が当初のものなのか、まるっきり後補のものなのか、あるいはある程度の改変が認められるものなのか議論がわかれていた。頭部が大幅に改変されている場合、尊格が地蔵菩薩ではない可能性も指摘されていた。初期神仏習合のありようをしっかりと見定めるためにも、尊格の確定は必須の事項となっていた。 そこで本調査においては、頭部と頭部の接合部の状態を確認するために、X線透過撮影をおこなった。その結果、後頭部において体部と頭部の木目が通っていることが確認された。また、頭頂部右方に後補材があててあるほかは、顔表面、とくに顎のラインに沿って補修された痕跡がみとめられた。 以上の画像分析結果から、本像においては頭部が大幅に改変されたとみることはできず、造像当初より地蔵菩薩としてつくられた像であったとみるのが穏当である。初期神仏習合の地蔵菩薩像であることが明確な遺品は数少なく、こうした基礎的事実を裏づける結果が出たことは、今後初期神仏習合の実態解明の貴重な手がかりとなるものと期待できる。
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