本年度は、長野県飯田市光明寺薬師如来坐像と阿弥陀如来坐像の調査をおこなった。これら二像は、いずれも平安時代後期につくられたものであるが、前者の薬師如来坐像は年紀のある基準作例として重要な作品であり、また後者の阿弥陀如来坐像は定朝様の典型的な一例である。これらの像の来歴や所在する土地の歴史を考えることによって、平安時代後期の彫刻様式の規範となった定朝様の伝播や当時の工房のあり方を理解するために重要な素材となる。あわせて本研究のテーマである平安時代前期の工房のあり方の特徴を浮彫にするための素材を得たことになる。 ついで、平安時代前期の木彫像の一作例として大阪府交野市獅子窟寺薬師如来坐像を調査した。本像はもともとは奈良地方にあり、近世に寺が中興されるにあたって奈良から当地へもたらされたことが明らかにされている像である。調査を通じて、構造・技法について新たな知見が得られ、平安初期の南都でつくられた木彫像の一遺品として重要な作例である。 こうした一連の調査の成果は調書・写真ともに整理して、当所閲覧室に配架し、閲覧に供し、また次年度に何らかのかたちで公表する予定である。
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