過去に収集された標本の中には、教育研究の場で用いられた模型標本が多く現存する。それらは、文化財という位置づけこそ持たないが、現代美術の創作活動にも多大なる影響を与えているものが多い。博物館の研究活動が継続していくにつれ、標本の歴史的位置づけの向上が予想される中、学術標本に対し現状維持のため防虫を目的とした燻蒸処置などは行われているが、様々な標本の中には修復を必要とするものも多く存在する。そのため、標本のデータベース化を進める一方で、モノとしての保存修復方法が問われることになる。 本研究において、主に東京大学数理科学研究科所蔵の数理模型について修復、レプリカ作成、別素材での復元的制作の三層構造で研究を進めた。これらの模型は19世紀から20世紀初頭にかけて、ドイツのマルチンシリング社により15年程の期間をかけて制作された石膏製の幾何学模型である。世界的に見てもマルチンシリング社製の数理模型コレクションは貴重な標本であり、それらに加え新たに数理模型109個のレプリカ一式を研究成果として挙げる事が出来た。今後は、国内外での展示活用が継続して行われつつ、一方では研究者間で広く行われている学術標本の貸し出し等にも活用される事が推測される。 これまで修復という概念を持たなかった大学博物館所蔵の学術標本の中には、日本古来の伝統技法を併用し、非常に高い技術に基づいて制作されたものも多く、素材や構造は複雑であり不明な部分もある。今後の課題として、文化財に用いられる伝統的修復技法を参考に、より実践的な修復研究を構造、素材、技法等の視点から、様々な標本分類に対し横断的に進めていきたいと考える。さらには、レプリカ作成を進めることにより、3次元的な情報発信及びレプリカを用いた保存、修復法を構築する事を目的とした研究が今後の課題である。
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