研究課題/領域番号 |
22720056
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研究機関 | 東京芸術大学 |
研究代表者 |
森田 都紀 東京芸術大学, 音楽学部, 講師 (10572258)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 音楽学 / 日本音楽史 / 能 / 能管 / 古楽譜 / 唱歌 |
研究概要 |
今年度は、研究実施計画にしたがって、現存する森田流の能管の古楽譜の資料調査・収集を中心にすすめた。とくに、地方大名である毛利藩につかえた由良家の伝承に注目した。 由良家は、毛利藩のもとで独自の技法を開花させ、「由良流」といわれる秘伝の音楽伝承を確立した能管の名家である。現在ではその伝承は途絶えてしまったが、萩博物館には、由良家で伝承されていた文書が残されており、その文書には古楽譜も多数ふくまれている。能の音楽伝承はとかく中央を中心になされてきたと考えられがちであるが、由良家のように、地方大名のもとで確立された音楽伝承が、森田流をはじめとする他流儀の音楽伝承に大きな影響をあたえた点は見逃せない。 今年度の調査では、実際に萩市の博物館に赴いて、由良家の文書の伝存状況を確認し、重要と考えられる古楽譜について、網羅的にデジタルカメラで撮影した。そして、データベースソフトをつかって、所蔵、著者、成立年代、書写年代、装丁、寸法などを整理した。 由良家史料については、竹本幹夫が「由良家蔵能楽関係文書目録(上)」(『能楽研究」7号、1982年)、「由良家蔵能楽関係文書目録(下)」(『能楽研究』8号、1983年)、「由良家蔵能楽関係文書解説」(『能楽研究』9号、1984年)に目録と詳細な解説を発表している。今年度の資料調査はその成果によるところが大きいが、竹本の調査から約30年を経た現在とあっては、あらためて由良家伝の古楽譜の伝存状況を把握する必要があった。そして、調査をした結果、現在では伝存を確認できなくなった古楽譜もあることが分かった。今後は、今年度おこなった古楽譜の資料調査をもとに、個々の古楽譜の解読・分析・整理を進めることが課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、日本中世芸能の「能」で使われる森田流能管という横笛の音楽伝承の時代的変容と確立過程を、古楽譜の所蔵調査と網羅的収集、丹念な分析と解読を通して明らかにするものである。本研究の主たる方法は、古楽譜の所蔵調査と網羅的収集、そして古楽譜の丹念な分析と解読である。 今年度まで、森田流の能管の古楽譜の所蔵先を実地調査を重ねてきた。とくに、早稲田大学演劇博物館や法政大学能楽研究所をはじめ、山口県の萩博物館などの重要な公共機関で所蔵されている古楽譜の現存状況の調査を終えている。把握した現存状況は、データベースソフトに情報を整理した。また、資料調査の過程で、重要と考えられる古楽譜については、紙焼き写真やデジタルカメラによる撮影などを行って、網羅的に収集をおこなった。 産休明けということもあり、時間的にも体力的にも厳しさが増し、資料調査と収集に思っていた以上に時間がかかってしまった。今後は、個々の古楽譜の解読・分析・整理を進める必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、収集した古楽譜を解読し、分析していく。分析の対象には、量的にも質的にもまとまりのある由良家の古楽譜を中心に据えることと変更し、由良家の古楽譜の記譜法、仮名表記、母音と子音の活用法、節廻しの表記法、音高、旋律型の種類、旋律型の注記の種類、レパートリーなどの音楽情報を抽出して、演奏技法を分析し、整理し、解読していく。これにより、地方大名のもとで発展した音楽伝承に地域的固有性が存するか、伝承間にみられる影響関係などがなかったかを検討する。
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