本研究は、イタリア南部ルカーニア地方の民俗舞踊/音楽であるタランテッラを、「現代社会に活きる伝統芸能」という観点から読み解き、その構造や美学を明らかにすることをめざしている。 初年度は、タランテッラの音楽と舞踊それぞれの分析対象となる基礎資料の入手を進めると同時に分析・考察を開始した。主要な活動としで、夏期に現地で集中的なフィールドワークを行い、国内では分析の第一段階として資料の整理・記譜等の作業を進めている。フィールドワークでは、(1)ポッリーノの聖母祭をはじめとする主要な祭りにおけるタランテッラの記録(ヴィデオカメラによる)と参与観察、(2)ルカーニア地方の二つの村(サン・コスタンティーノ・アルバネーゼ、テッラノーヴァ・ディ・ポッリーノ)のタランテッラの実演の記録とインタビュー、(3)関連する資料(先行研究等)の収集の三つを行った。第一の祭りの記録は重要な資料で、聖母マリア信仰における音楽・舞踊の意味を、宗教的ひいては文化的・社会的観点から考察するため、踊り手をはじめとする人々の動作(ステップ、身振り、相互作用等)の分析を進めている。動作の文化的な意味を理解・解釈するには、より広範囲な文化的ふるまいの規則を調査する必要があり、次年度の課題としている。第二のタランテッラの実演記録は貴重な分析資料で、現在、舞踊の記譜法としてもっとも精密虚なラバノーテーションを用いて、二つの村のタランテッラの記譜を進めている。労力を要する作業記譜を継続しながら分析を進めており、タランテッラの記譜法とくに拍子に関して、新たな提言を行うべく論考を纏めている。
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