本研究は、イタリア南部ルカーニア地方の民俗舞踊/音楽であるタランテッラを、「現代社会に活きる伝統芸能」という観点から読み解き、その構造や美学を明らかにすることをめざしている。本年度は、フィールドワークで得た収集資料からタランテッラの音楽・舞踊を分析・考察し、その成果を学会発表および投稿論文を通じて発表した。 成果は大きく分けて基礎研究とそれに基づく仮説の二つである。まず、タランテッラの舞踊のステップと形式を、三つの事例(宗教行列のタランテッラ、ポッリーノ地方の「パストゥラーレ」、サン・コスタンティーノ・アルバネーゼ村の「クムザ」)を対象に分析・記譜し、整理した(一事例を紀要論文に掲載)。また、舞踊の身振りをめぐる規則について、伝統的な身体表現を措定すると共に、その社会的な意味を考察した(紀要論文)。さらに、以上の舞踊分析に基づき、タランテッラの音楽構造の再検討も試みた。とくに身体性(踊り手・演奏家の身体運動・感覚)に注目し、ステップの分析を通じて音楽のリズムを考察することで、歩行から舞踊へ移行する過程と並行した二連符から三連符への変遷を仮説として提示した(学会発表)。 第一のタランテッラの基礎研究は、イタリアの民族音楽学においても未だ事例が限られていることから、重要な事例研究を提供することができた。第二のタランテッラの音楽・舞踊の構造については、国際学会の発表で一定の評価を得ると同時に貴重な意見・批判も得ることができた。今後の検証が課題であるが、音楽・舞踊の構造分析に身体性という一つの示唆を提示することができたと考えている。
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