本研究は、19世紀半ばのアメリカを中心とする「お針子」の表を明らかにすることによって、近代的な「ファッションと女性性」との関係がいかに成立したのか、すなわち「自ら作り、着飾り、視る」という女性たちの自家撞着的な欲望がいかに構築され、「ファッションを女性的なもの」と見なす近代的視線が生成したのか、その歴史的経緯を明らかにするものである。本年度は、アメリカの雑誌や絵画に表象された「お針子」像を考察するにあたって、まず1840年代のアメリカの出版物において頻繁に転載・引用されたイギリスの「お針子」像に関する資料の調査・収集を行った。研究を通して次の点が明らかとなった。まず、ロンドンを中心とする雑誌においては、貧しいお針子がファッションに興じる男女と比較されることで、ますますその悲惨さが強調された。また、政府による児童雇用委員会の報告書においては、お針子の過酷な労働環境、低賃金、健康被害が報告された。しかし絵画や小説を見てみるならば、お針子がただ下層階級の虜わる過酷な労働としてのみ描かれたわけではないことが明らかとなる。産業革命の時代に「内なる家庭」に留まり「裁縫」に携わる「お針子」たちが多く描かれた。糸紡ぎや機織りが機械化された時代に、「裁縫」における女性の仕事としての側面が強調される。鑑賞者たちは「お針子」の表象を別世界の出来事ではなく、同じ世界の現実の視覚化として強く意識するようになったと考えられる。
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