研究課題/領域番号 |
22720062
|
研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
田中 均 山口大学, 人文学部, 准教授 (60510683)
|
キーワード | ツアー・パフォーマンス / 都市と芸術 / 芸術における参加 |
研究概要 |
平成23年度は、ツアー・パフォーマンス公演および関連する公演・展示の調査として、5月にウィーン芸術週間で、《個室都市ウィーン》の調査、11月には東京で《国民投票プロジェクト》の調査を行った(ただし後者は、開催期間が長期にわたったため部分的なものに留まった)。前者は、個室ビデオ店の形式を用いた2009年の《個室都市東京》に、ウィーンでの街頭のインタビュ「記録と独自のツアーを加えた展示であり、震災と原発事故前の池袋の映像を用いつつ、東京の現在について想像することを観客に促す性格を持っていた。その点で、2010年の《個室都市京都》と同様、そこには見えない別の都市(2010年の場合は大阪あいりん地区)への想像を促す作品であった。もちろん、「個室ビデオ店」が都市の中で不可視化された場所であり、その一方で人びとの住まいとしても機能していることも重要な背景である。また後者は、東京の各地を巡回する保冷車の中で、福島県の中学生への「希望」についてのインタビューを観客が視聴し、また自らの記憶について「投票」するという仕方で参加するもので、これは東京と福島を結びつけるほかに、中学生の未来と観客の過去という二つの時間が交錯する性格も持っている。 また、「参加」の観点において類似した海外の事例として、ドイツのグループ「リグナ」による「ラジオバレエ」に着目し、研究協力関係にあるカイ・ファン・アイケルス氏の論考「集会の手前で」を翻訳し、その解説を執筆した。これは『アートポリティクス第二号』(近刊)に掲載される予定である。また理論的分析のための作業として、芸術における参加の問題を論じた美術批評家クレア・ビショップと美学者ジャック・ランシエールの所説についての論考「芸術における「解放」とは何か」を執筆した。これは仲正昌樹編『批評理論と社会理論<1>:アイステーシス』に掲載された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究期間中に開催されるツアー・パフォーマンス公演およびそれに関連する公演・展示を調査する、という課題はおおむね順調に達成している。海外における類似した事例との比較も進めており、また琿論的考察については「参加」という観点から近年の美学理論・美術批評を参照するという作業も行っている。ただし、公演の調査を深化させ理論的な分析との有効な総合をはかるには、演出家・ドラマトゥルクなど公演制作に携わった当事者への十分な聞き取りを行うことが必要であると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究課題は平成24年度に最終年度を迎えるため、これまでの調査や理論的分析を続行する一方で、研究の総括と成果の公表を進めていく。調査としては、日本国内におけるツアー・パフォーマンスおよび関連公演の調査、海外の類似した事例の調査(とりわけウィーン芸術週間)を今年度も行う。また理論的分析のために、「参加」の概念に関わる美学・美術批評め文献の渉猟を進める。また、アーカイブとパフォ肝マンスの関係についての理論的考察も必要であると考える。そして、理論的分析と調査との総合・深化のため、演出家・ドラマトゥルクら制作者への聞き取りを行う。そして、3年間の研究成果を論文と・して発表する。
|