研究初年度である平成22年度は、聴覚文化研究の理論的動向および都市文化論の主要な議論をサーベイするとともに、都市空間とメディア空間における聴覚文化現象に関する基礎調査に着手した。研究計画書に記載された研究計画・方法の項目別に以下に列挙する。 (1)メディア空間と分かち難く結びついた都市空間における聴覚文化の調査・分析:インターネット空間における音楽関連ウェブサイトの現状と受容に関する概観的調査と、YouTube・ニコニコ動画・Dommune等の動画配信サイトにおける都市空間表象に関する基礎的な分析を行った。その萌芽的成果については、これら音楽メディア空間の再編に伴う音楽産業群の戦略動向と合わせて、雑誌論文として簡潔に発表した。また、関連する問題群として都市-メディア空間におけるポピュラー音楽表象の模倣関係に関する言説分析について、シンポジウムにて発表を行った(この発表を含むシンポジウム全体の記録報告書が平成22年度末に刊行されている)。および、随時大阪の都市空間のフィールドワークを実施し、商業空間や公共空間のBGMやサウンドスケープについて、萌芽的な調査に着手した。 (2)メディア空間における大衆音楽が、大阪という都市空間のイメージを構築してきた過程についての調査・分析:大阪の都市イメージに関する資料収集に着手し、メディアに表象される大阪のトポスについての分析の基盤構築を開始した。並行して、日本でのレコード産業およびラジオ放送の勃興期(大正~昭和初期)から高度成長期にかけての大衆音楽史に関する網羅的な資料収集を進めた。 (3)両者の相互作用を包括的に把握する理論化作業:現代都市における聴覚文化実践の諸問題を比較研究する目的で、韓国・ソウルの音楽レーベル関係者を招いた小シンポジウムを開催し(大阪市立大学船場アートカフェ)、大阪の都市空間における聴覚文化との比較考察に資する知見を得た。
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