沖縄の歌三線音楽の演奏において、音を発する際に手、首、頭、さらに上半身といった身体の動きを通じて、他の演奏者と音を合わせるという工夫がある。本研究では、沖縄の伝統的な理論や言い伝えや楽譜をはじめ、現代の演奏者のビデオ映像や演奏者とのインタビューを通して、その身体の動きは「身体化された知識」(embodied knowledge)としてどのような役割を持ち、どのような知識が身体の動きに表現されているのか考察することを目的にした。 今年度の研究によって得られた成果は、主として次の3点に集約できる。1)野村流の演奏において、身体の動きは旋律の動きと深く結びついていて、またその動きは楽譜の工工四に記載されている。2)2010年7-8月に録画したビデオや演奏家とのインタビューから、身体の動きは旋律やリズムを他人に伝える役割もあることを明確にした。例えば、師匠が旋律を伝えるために頭の動きを強調し、さらにその頭の動きについて、口頭でも指摘している例が見られた。また、弟子が「手の動きが見られないと曲が合わし難い」などの発言があった。3)さらにもう一つの「知識」として、「手の動きを見ることで流派内の門下会や系統がわかる」といった発言では、身体の動きは門下会のアイデンティティをも表現していることがわかった。また、この調査では一つの門下会の中で手の動きを統一する意義が強調されたことから、身体の動きは現代の演奏者の間で意識され、また問題視されていることが明らかになった。 これらの研究成果は2010年11月東京学芸大学で開催された東洋音楽学会全国大会にて、研究発表を行い、高い評価を受けた。また2011年7月カナダで開催されるICTM大会での発表審査を通し、本研究の研究成果を発表する予定である。
|