研究概要 |
本研究は、日本映画の映像表現が、語り芸や音楽、演劇など、映画以外の諸芸能とともに、どのような文化的複合性のもとで形成されたのかを明らかにするために、無声映画期の映画館プログラムのデータベース構築を通じて、当該期の映画館の興行形態を調査分析し、その理解の基盤となる基礎研究を実施したものである。 本年度は、仙台、東京、横浜、浜松、京都、大阪、佐賀および大連の各都市で発行された映画館プログラムについて、これまで収集してきたテキストデータをもとに構築したデータベースを整備・活用し、本研究が着目してきた興行形態の地域性という観点から、映画史的考察をおこなった。そして、無声映画期に現代劇と時代劇に分岐していった、東京と京都の映画製作で主流となる、映像表現の地域的な差異の要因として、都市空間における映画館と諸芸能の興行形態の地理的分布に偏差が生じていたことを指摘し、その成果を国際学会で口頭発表した("The Development of Regional Characteristics during the Emergence of Moving Picture Theaters: A Comparison between Tokyo and Kyoto," Twelfth International Domitor Conference, 2012)。また、無声映画期以降の旧植民地と日本映画との関係も視野に入れて分析を進め、「満洲国」と「内地」の映画館に関する比較研究をおこない、その成果の一部を、雑誌『満州映画』の解題として発表した(「『満洲映画』の映画史的位相―解題を兼ねて」『満州映画(復刻版)』8巻所収、2013年)。
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