研究課題/領域番号 |
22720077
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
大原 祐治 千葉大学, 文学部, 准教授 (40554184)
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キーワード | 日本近代文学 / 占領期 / 地方雑誌 / メディア |
研究概要 |
昨年度に引き続き、プランゲ文庫所収のマイクロ資料の調査を進めるとともに、プランゲ文庫に収蔵されていない資料も含めて、原資料に直接触れるべく、地方の図書館に所蔵されている資料や古書として流通している資料についても調査・収集を試みた。 敗戦直後の地方雑誌は多種多様にわたり、また刊行母体も地方新聞からごくローカルな文化団体にいたるまでその規模もまちまちであるため、その概要を把握することには大きな困難が伴う。そのため本年度はまず、地方の文化団体によって刊行されていたいくつかの雑誌を対象に、「編集後記」等に記されている寄贈雑誌一覧などの情報を調査することで地方雑誌相互の交流に関する情報を拾い上げ、個々の地方を越えて広く形成されていた、ローカルメディアのネットワークについて、その一端を明らかにした。具体的な事例としては次のようなことが挙げられる。 (1)新潟県で刊行されていた雑誌「北日本文化」が、創刊に先立って北海道を含む各地の地方新聞の紙面において投稿を募っていた事例。 (2)岐阜県で発行されていた雑誌「新樹」が、全国各地の地方雑誌に関する創刊情報やレビューなどを随時掲載した事例。 一方、調査の過程で確認されたのは、戦後俄に出現したかに見える地方雑誌の刊行という現象が、実際には戦前から連続するものでもある、という位相である。例えば、岐阜県で雑誌「地方文化」を創刊した小木曾旭晃は、明治43年の段階で『地方文芸史』という書物を著しており、以後長らく全国各地の地方文壇の動向をつぶさに追いながら、自ら地方の文化運動に寄与し続けた人物であった。 敗戦直後における地方雑誌の出現を一過性の現象として捉えるのではなく、戦前からの連続性において捉え返すことで、専ら東京の出版メディアから刊行された文学作品を中心に編まれてきた近代文学史の叙述を再考するとともに、東京中心で理解されてきた把握されてきた文化の受容と流通のシステムについて広く再考することが可能となるはずである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
敗戦直後に刊行された地方雑誌の種類と規模はきわめて多様であり、占領期検閲資料であるプランゲ文庫にも収蔵されず散逸してしまったと思われる雑誌が少なくない。こうした資料を調査するには、各地の公立図書館や古書店等へと足を運ぶ必要があると思われるが、そのような機会はこれまでのところ必ずしも十分に確保できているとは言えない状況にある。
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今後の研究の推進方策 |
プランゲ文庫資料とその記事内容に関するデータベースを有効に活用することはもちろん、これらを漏れ出る資料の所在については、各地の図書館に直接足を運んで調査を行うことが必要である。直接、原資料に接する作業からは、雑誌の記事内容だけではない諸情報(判型・装偵・用紙など)に関する情報もあり、研究課題の推進のためにこうした調査は必須であると考えられる。また、学習院女子大学図書館の「高橋新太郎文庫」には、敗戦直後に刊行された雑誌の創刊号を揃えたコレクションがあるので、これを有効に活用したい。
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