研究課題/領域番号 |
22720078
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研究機関 | 実践女子大学 |
研究代表者 |
河野 龍也 実践女子大学, 文学部, 講師 (20511827)
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キーワード | 近代文学 / 文献学 / 近代中国 / 戦争詩 / 疎開 / ナショナル・アイデンティティ / 台湾 |
研究概要 |
平成23年度は、2本の論文、2回の国際学会における発表を通じて本研究の成果を公表することができた。ここで取り上げた研究テーマは、(1)春夫におけるアジア体験・アジア表象の分析、(2)春夫における疎開体験の意義づけ、の2点に集約される。(1)は、平成22年の台湾南部における現地調査をふまえ、春夫の代表作の一つ「女誡扇綺潭」の作品世界に関して、註釈的なアプローチを提示したものである。国内で閲覧困難な戦前台湾での研究の蓄積を取り上げる契機ともなった。また、同じく春夫の台湾旅行の成果である「日月潭に遊ぶ記」と「旅びと」とを比較することで、異国の風光をガイドブックのように紹介する平板な旅行記的記述から、"感傷的な私"の造形へと創作の中心をシフトさせて行く春夫の私小説的転回の具体相が確認できた。以上は、台湾中国関連作品の草稿研究を行う上での基礎研究を企図したものである。次に(2)に関しては、春夫が疎開時に用いていた創作ノートの全容を翻刻紹介した。これまでの調査で、新宮の佐藤春夫記念館には同時期に春夫が使用していた別種のノートが収蔵されていることも判明しており、戦争詩人としての春夫が、戦後文壇に復帰する局面でいかに心をくだいたか、その表現戦略を詳細に跡づけることが可能になった。一方、草稿類の整理、および佐藤春夫あて書簡類の調査も順調に進んでいる。中でも、春夫の父・豊太郎が故郷新宮から春夫に宛てて送った多数の書簡の中には、直接春夫の創作に活かされたとみられる素材が多数存在している。春夫文学の一つのテーマである「望郷の念」を側面から裏付けるものであり、素材研究の点からも注目される資料群である。現在、成果の公表に向けて調整を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
文献資料の調査・翻刻を逐次的に進めながら、関連研究の成果を発表することで折々軌道修正を施し、全体の方向性を確認している。
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今後の研究の推進方策 |
書簡の解読作業に関しては、今後周辺作家との往復書簡の解読を通じて、当時の文壇ネットワークの実態を明らかにしていきたいと考えている。また、未整理分の草稿類に関しても、分類と生成過程の分析・公開に向けて準備を進めて行く計画である。関係者への取材交渉も進んでおり、今後も現地調査を積極的に行い、成果の報告に努めたい。
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