研究課題/領域番号 |
22720078
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研究機関 | 実践女子大学 |
研究代表者 |
河野 龍也 実践女子大学, 文学部, 講師 (20511827)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 国際情報交換 / 近代文学 / 中国 / 台湾 / 文献学 / ナショナル・アイデンティティ / 日本文学 |
研究概要 |
平成24年度は、8月中旬にアメリカ・スタンフォード大学で蒋介石日記の調査を行い、同下旬には台北で文献調査、台南で都市調査を行った。この調査結果をもとに、今回は2本の論文、1回の国際学会における発表を通じて研究成果を公表することができた。いずれも佐藤春夫におけるアジア体験・アジア表象を分析したものである。 研究論文の一つは、大正9(1920)年の中国における春夫の行動を可能な限り再現しようとしたもの。中国全土でも先進的な社会主義政策をとっていた軍閥・陳炯明による近代的な都市改造に春夫が期待を抱き、やがて幻滅することで春夫の中国古典趣味が成立したプロセスを明らかにした。また別の論文では、同じ旅行に材をとった春夫の代表作「女誡扇綺譚」を取り上げた。そこでは、作品の舞台である台南の都市空間が持つ歴史的な意味を、現地の郷土史研究の成果を活用しながら復元することに努め、これを作中の表現と照合することで、衰頽した港の記憶に被支配者としての鬱屈を紛らせる作中の台湾漢詩人の造型が、当時の台湾知識層の実情をかなり忠実に伝えたものであることを明示することができた。 一方、学会発表では、春夫の中国旅行が内戦時代の中国の最前線を行く危険なものであったことを指摘。その根拠として、同時期同地方で連絡員を務めていた蒋介石の日記にも触れた。さらに春夫が滞在した福建省の厦門は当時激しい排日運動のさなかにあり、そのような場所を日本人として単独で旅行した経験をつづった『南方紀行』は他に類例を見ない貴重な中国旅行記であることを指摘。またその記述は、民間交易港として繁栄した厦門の都市構造を忠実に反映したものであることにも言及し、春夫の紀行文における空間把握の特色をも明らかにした。 以上は、現在残された春夫関連の書簡や草稿、絵画類を研究する中で、その註釈情報を整備する必要から取り組んだものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
文献資料の調査・翻刻を逐次的に進めながら、関連研究の成果を発表することで折々軌道修正を施し、全体の方向性を確認している。佐藤春夫に関する一次資料の整備から発展し、かなり多くの註釈情報を収集することができた。また所期の希望通り、国際学会に継続的に参加し情報発信ができたため、研究状況はおおむね順調と言うことができる。
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今後の研究の推進方策 |
書簡の解読作業に関しては、周辺作家との往復書簡の解読を通じて、当時の文壇ネットワークの実態に関する考察を進めつつある。また、未整理分の草稿類に関しても、分類と生成過程の分析・公開に向けて準備を進めて行く計画である。関係者への取材交渉も進んでおり、註釈情報のデータベース化に向けて今後も現地調査を積極的に行い、成果の報告に努めたいと考えている。
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