平成25年度は3件の出張を行った。9月12日~15日の台北出張では、国立台湾図書館にて旧総督府蔵書の閲覧を行い、また国立台湾大学では、日本時代の新聞資料の調査を行った。さらに台北市内在住の台南郷土史研究家を訪問し、春夫作品の舞台となった台南の港町文化についての貴重な教示と資料提供を受けた。次に9月17日~19日の新宮出張では、佐藤春夫記念館を訪ね、創作ノート・原稿を中心とする所蔵資料の調査を行った。また、春夫没後50年を迎える平成26年度に、記念講演会および記念出版を行う計画を立て、その具体化について協議した。そして12月27日~28日の神戸出張では、大正9年に春夫を台湾に招いた級友の遺族を訪問し、同家所蔵の写真資料の提供を受け、またインタビューを行った。その内容については年度中にまとめ、活字公開することもできた。 以上のように、今年度の研究では、春夫の台湾・福建紀行に関する調査に大きな進展があった。その中で、台湾の郷土史研究家や春夫関係者遺族と対話でき、良好な関係を築けたことは、今後の研究にとって大きな力になるだろう。研究成果としては、上記紀行に関する論文・注釈・インタビュー記事を都合4本発表することができた。春夫にとって重要な転機となった台湾・福建紀行中の知られざる行動を、聞き取りと新聞記事調査から明らかにできたことは顕著な収穫である。一方、春夫宛書簡に関しては、重要人物の書簡翻刻から始めデータの蓄積に努めているが、分量が膨大なためいまだすべてを網羅しきれてはいない。ただし、春夫の戦後文壇への復帰がいかに果たされたかを知るための重要書簡が調査中に出現した。この疎開中に書かれた春夫自筆書簡約60通の解読と翻刻をほぼ終了し、現在著作権処理と公開手続きを開始している。
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