今年度に実施した研究の成果は、『懐風藻箋註』の翻刻と、現存する写本のデータの収集ができたことである。 『懐風藻箋註』(今井舎人、1865年)は、『懐風藻』の現存する注釈書としては最も古いものである。これまで、翻刻されていなかったために、容易に見ることができず、『懐風藻』の研究に活用するのが困難な状態であった。本研究の成果であるこの翻刻によって、今後の『懐風藻』研究に利用することが容易になり、これまでの研究状況が見直される可能性がある。 現存する写本データの収集に関しては、今年度は、静嘉堂文庫所蔵の脇坂本、内閣文庫所蔵の来歴志本と林家本、川越文庫所蔵の不忍文庫本、尊経閣文庫所蔵の前田家本など、都内を中心に所蔵地に赴き、書誌データの確認と本文複写を行った。今年度収集できたこれらの写本の本文を比較し、本文系統の可能性を確認することができ、現在の最新の研究成果とされている小島憲之氏の論とは異なる点が、いくつか見出された。この研究を継続していけば、『懐風藻』の本文の系統について、明らかにすることができる見込みがあることを改めて確認できた。
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