研究課題/領域番号 |
22720090
|
研究機関 | 国文学研究資料館 |
研究代表者 |
恋田 知子 国文学研究資料館, 研究部, 機関研究員 (50516995)
|
キーワード | 比丘尼御所 / 物語草子 / 陽明文庫 / 仮名法語 / 奈良絵本・絵巻 / 浄厳院 / 隆堯 / 『発名能可利父子抜書』 |
研究概要 |
前年度に引き続き、内容および伝来の様相から比丘尼御所の尼僧の関与が濃厚である陽明文庫蔵「道書類」について、各作品の特定を進め、新たに二つの浄土宗仮名法語について翻刻紹介した。一つはある女房の求めに応じ、法然の教えや道歌をちりばめ、念仏の教えを平易に説いた新出仮名法語で、『真如堂縁起』と共通する和歌を有しつつも、その制作時を遡る本奥書から縁起制作の一端が窺える貴重な文献である(『三田國文』53号)。もう一つは『法然上人絵伝』中にその書名が見えるものの現存が確認できず、長年散逸とされてきた弁長作『念仏往生修行門』の元和年間の書写本である(『三田國文』54号)。いずれも本研究の遂行により、新たに見出された貴重な仮名法語であり、比丘尼御所の尼僧向けという本書物群の性格を裏付ける要素も認められる。また、比丘尼御所の尼僧の参詣記録について、その成立環境と伝来圏を考察しつつ、参詣の先達かつ記録者でもあった本山派修験の重鎮住心院実意の活動の具体相を明らかにした(『修験道の室町文化』分担執筆)。なお、尼僧をめぐる物語絵という観点から、国文学研究資料館蔵の奈良絵本『唐糸草子』『静草紙』について検討し、挿絵の特徴や制作状況についての考察を試みた(『国文研ニューズ』24号)。 一方、本研究にかかわる中世寺院圏における物語草子・説話の生成と享受という視点から、安土浄厳院や大阪市立美術館等の文献について調査・研究を進め、口頭発表や論文執筆をおこなった。とくに室町前期の浄土僧隆堯の書写活動に注目し、談義の具体相や比丘尼御所の尼僧が関与した書物との関連について考察した。その上で、浄厳院蔵『発名能可利父子抜書』を取り上げ、寺院における物語草子の享受や貴顕による宗教的言説の受容の具体相を明らかにし、寺院の書物群が室町文化に果たした役割について論じた(説話文学会9月例会、『説話文学研究』47号掲載予定)。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
室町期の古記録や公家日記、および各機関の目録類から、尼寺を介した、あるいは尼僧の関与した文献の抽出作業に従事している。そのなかで関連する文献の新発見や再考察の必要性なども浮上し、重要な文献であるがゆえに、結果的にやや個別の分析に終始しがちとなってしまった。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究の最終年度にあたることから、これまでの調査・分析結果をまとめ、公開していくことに努めたい。とくに、関連する個別の重要文献の分析とともに、研究成果の全体像の把握・考察にも尽力していく。
|